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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

こちらもいろいろと古傷を持っているから、警察と係りあうのはありがたくないが、こんどばかりは、もう黙っていない」

発条のゆるんだ煖炉棚の時計が、ねぼけたような音で十一時をうった。

話を終りにさせるつもりで、久美子はおっかぶせるようにいった。

「大池さん、十一時よ……あと七時間……いままで保った心臓なら、明日の朝まで保つでしょう。しゃべるのはそれくらいにして、すこし眠ったらどう」

胸にたまっていたものを吐きだしたので、気持が楽になったのか、大池は素直にうなずいた。

「眠れるかどうか、やってみる……赤酒をください。三十CCぐらい……心臓というのは気むずかしいやつでね、交際いきれないよ」

久美子はコルクの栓を抜き、いいほどにタンブラーに赤酒を注いで渡した。大池は小鳥が水を飲むように、時間をかけてチビチビと赤酒をすすりこむと、眠るつもりになったらしく、クッションに頭をつけて眼をとじた。

なんとなく静かな顔つきになったと思ったら、大池は鼾をかきはじめた。

湖水のほうから来る風が、潮騒のような音をたてて林の中を吹きぬけてゆく。風の音と鼾の音が一種の階調をつくって、ひとを睡気にさそいこむ。