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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

戦争以来、特に最近年に至って肝臓疾患が激増しつつあるのは事実であり、今や我々は、診療に当って、尿や便を検査すると同様に、あらゆる患者の肝臓を診る必要があるのであります。赤城先生のお話がありましたので、私からも、一言この点を御参考までに申上げる次第です」

先生は感動に目がくらみ、夢中に立ち上って、

「はからずも角尾先生の御激励のお言葉をいただき、孤島にひとり配所の月を眺めてくらす肝臓医者たるもの、閉ざされた冬の心に春の陽射しの訪れをうけた思いが致します。診療に当り尿や便の検査同様、肝臓を診よとのお言葉は、われわれ臨床家の金言となすべきもの、心に銘記して、終生忘れません。まことに、ありがとうございました」

こう云って先生が座につくと、又一人、スックと立った人がある。九条武子の建設した「あそか病院」の院長、大角先生である。

「ただ今のお話は、私もこの日頃痛感しておりました事実で、近年の流感患者はすべて肝臓疾患あるものとみてよろしいようです。前にスペインカゼが流行の折も、肝臓肥大ならびに圧痛があって、これが今日残っている人があり、こういう患者に、あなたはスペインカゼをやりましたね、ときいてみれば、先ずこの推定に狂いのないことが分るのであります」