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かんぞうせんせい
肝臓先生
「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页
こんなわけで、私は魚市場から段丘を登ったところにある烏賊虎さんの二階に五日間泊めてもらった。私は、できるなら、五年間でも泊りたいと思ったほどである。
漁師というものは、実にあたたかくて、親切なものだ。オ早ヨオ、だの、コンバンワ、などゝ月並な挨拶は全然やらない。ほかに気の利いた代用品を用いているわけではない。つまり、ゼンゼン喋らないのである。どんな親しい間柄でも、黙って往来をすれちがう。頭も下げない。彼らは魚に同化して、ムダなことは喋らなくなっているらしい。魚が挨拶したら、おかしなものだ。鯛のような人もいるし、ヒラメのようなジイサンもいる。アンコーにそっくりのオッサンもいるし、イワシのような娘もいる。ヒラメ族というものが、すべて一律にただヒラメであって、太郎ヒラメでも花子ヒラメでもないように、彼らにとって、人間族は一律にただ人間であって、その絶対の信頼感と同族感が漁師町に溢れているのである。
そして漁師は魚よりも、かしこくて、おだやかである。私は伊東市の半分、温泉町ではよその土地からまぎれこんだ地廻りたちがケンカするのを見たが、あとの半分の漁師町では永久にケンカがないことを知った。