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のうのなかのれいじん

脳の中の麗人

海野 十三

「日の出」1939(昭和14)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页

青空文庫

「相場をやったのですよ。相場ですっかりすってしまったのです」

「それは乱暴だな。自分の脳を売った金で、相場をやるなんて。そのなんとかいう君の愛人にだって、気の毒な話じゃありませんか」

宮川も、つい抗議めいたことをいいたくなっていった。

すると矢部青年は、首を左右にふって、灼けつくような視線を宮川の面に送って云うには、

「乱暴かもしれません。たしかに僕は相場で失敗したのですからね。ですけれど宮川さん。もしも相場で僕が何倍かの大金を儲けたら、僕はなにをするつもりだったか、あなたにお分りですか」

宮川は、矢部の激しい語気におされて、うしろへ身をひきながら、

「さあ、僕には、君がそのような大金をなんに使うつもりだったか分らないねえ」

とこたえた。すると矢部は、ぎりぎりと歯ぎしりをして叫んだのであった。

「ぼ、僕は、あなたに売った脳を買い戻したかったんだ。売った値段の二倍でも三倍でもなげ出すつもりだったんだ。だが、とうとう僕は失敗した。でも、いつか僕は、あなたの頭蓋骨の中から、きっと僕の脳を買い戻してみせる!」

ベンチのうえに真青になった宮川を尻眼にかけて、怪青年矢部はすたすたと足早に、向うに立ち去った。