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のうのなかのれいじん
脳の中の麗人
海野 十三
「日の出」1939(昭和14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页
「それはどうしたわけですか」
博士は宮川の面を熱心にみつめながら尋ねた。
「それはつまり、私の心が冷たいといって、彼女が口惜しがりだしたんです」
「あんたはなにか冷淡な仕打をしたのですか」
「そこなんですよ博士、はじめは私も熱情を迸らせたようですが、あるところまでゆくと、急にその熱情が中断してしまったのです。そして俄に不安と不快とに襲われたのです。そのとき頭の中に、別の一人の女の顔が現れました。それは日本髪を結った白粉やけのした年増の女なんです。その女が、髷の根をがっくりと傾け、いやな目付をして私に迫ってくるのです。払えども払えども、その怪しい年増女が迫ってきます。そういう不快な心のうちを、どうして美枝子に話せましょう。彼女にとって私が冷淡らしく見えたというのは、まだよほど遠慮した言葉づかいでしょう。きっとそのとき私は、塩を嘗めた木乃伊のように、まずい顔をしていて、しゃちこばっていたに相違ありません」
「それで、なぜあなたは矢部氏の脳をほしがるのですか」
「わかっているじゃありませんか。矢部君の脳室の中には、美枝子を慕う情熱を出す部分がまだ残っているのにちがいありません。