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のうのなかのれいじん

脳の中の麗人

海野 十三

「日の出」1939(昭和14)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页

青空文庫

それを切り取って、私にうつし植えてください。私の持っている金は、いくらでも矢部君にあげてください」

博士は、黙って考えこんだ。

「それからもう一つおねがいです。あのいやな日本髪の年増女の幻が出るところの脳の部分を切り取って捨ててください。そうだ。もし矢部君が欲しいというのなら、その部分を、彼に植えてやってください」

「それはたいへんなことだ」

「博士、ぜひ早いところ、また手術をしてください。一体あの白粉やけのした年増女は、どこのだれなんですか」

博士は、その質問にはこたえないで、

「うむ、とにかく矢部氏に相談してみよう」

と、言葉すくなに云った。

それから一週間ほどして、黒木博士は再び脳手術にとりかかった。手術室には、右に宮川、左に矢部が寝かされていた。

こんどの手術は、わりあい簡単にいった。半年もすると、矢部の方は、まだいくぶん元気がなかったが、宮川の方はもう退院できるようになった。

「おい婦長。いよいよ宮川氏は明日退院させるが、君になにか意見はないかね」

「まあ、黒木博士。わたくしになんの意見がございましょう。この前は、宮川さんがたいへんな外傷を負っていらしったせいで、あのように手術後の恢復も長引き、精神状態も危かしかったのでございましょうね」