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じさつをかうはなし
自殺を買う話
橋本 五郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 页
ただ涙が、さんさんと止めどなく溢れ出した。
「まあ煙草でも呑み給え」
それを無意識に彼は受取った。そしてこの青年が墓地からの同行者であったこと、善良な、富裕な、しかも教育のある人間であることを、彼は涙の中から一度に感じた。
「済みません、僕は、僕は何も喰っていないのです」
彼は、初めて感謝の念をもって答えた。恥しさもなかった。
「何も喰っていない? じゃあ君、僕の家へ行こうじゃあないか」
友達のような親しさではないか。彼は今日までの貧しさを全部話した。そして自殺する考えではなかったこと、しかし早晩、そうなるような気がする、と率直に付加えた。
「僕も実はねえ」
と、青年は語尾を濁らしたが、やがて何か考え直した様子で、
「何だったら、僕が君の自殺を買えばいいんだ、それが金のことなら――」
と、また後は消えてしまった。
彼はとにかく、青年の好意に甘えることにした。青年は路々、金に困っている若い人々の話を訊いた。そして深い黙考を続けながら歩いた。彼はつとめて虔ましく、彼自身や、または同様の運命にあるであろう幾多の青年の、無名の画家の話をした。沈み切った真実を以って、人はパンのみに生くるものにあらず、と云うキリストの言葉が、それ等未成の偉人達には、一番かなしい事実であると云うことを。