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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

一

あっちこっちで帰り支度がはじまった。ビルディング内の生暖かい重い空気が急にしまりなくなって、セカセカかき立てられた。

ミサ子は紫っぽい事務服を着てタイプライタアをうっている。かわり番こにワイシャツにチョッキ姿の社員が手洗いに出たり入ったりした。大声で、

「ああ、ありゃダメさ!」

廊下の誰かと話しながら肩でドアを押して入って来る者もある。

ミサ子は、その中でわき目もふらずタイプライタアを打ちつづけた。もう一枚、短い手紙がある。それさえ打ちあげれば、一日の仕事はすむわけだ。

男の社員たちは、机の前にくいついている仲間に、

「おい、まだかい?」

と声をかけた。自分は洗って来た手を拭きながら肩越しにのぞき込んだりしている。

しかし、ミサ子に、まだかい? ときく者もいなかったし、退け時におくれまいとして熱心に打っている彼女のタイプライタアの前へ立ち止るものもない。彼女ばかりはいてもいないでも問題にしない扱いだ。

ミサ子は馴れてる。これがこの××○○会社の気風なんだ。入社して来るとき、タイピストは、どうか注意して余り用事以外の口を男の社員ときかないようにして下さい、と云われた。