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ぶま

舞馬

牧 逸馬

「新青年」1927(昭和2)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,843 字 · 16 页

青空文庫

1

植峰――植木屋の峰吉というよりも、消防の副小頭として知られた、浅黒いでっぷりした五十男だった。雨のことをおしめりとしか言わず、鼻のわきの黒子に一本長い毛が生えていて、その毛を浹々と洗湯の湯に浮かべて、出入りの誰かれと呵々大笑する。そうすると、春ならば笑い声は窓を抜けて低く曇った空に吸われるであろうし、秋ならば、横の露路に咲いたコスモスのおそ咲きに絡まる。

「入湯の際だがね、このコスモスてえ花は――」と峰吉は矢鱈に人をつかまえて講釈をするのだ。コスモス――何という寂然たる病的な存在だろう。こいつを土に倒しておくと、茎から白い根が生える。まるで都会の恋人の神経みたいな。と、もし峰吉に表現の能力があったら言ったかも知れない。そして、湯に浮んだ一筋の毛をゆらら、ゆららと動かすことによって、窓から映っている蒼空の色を砕く。とにかく、俳境のようなものを自得しつつある峰吉だった。だから、峰吉は峰吉以外の何ものでもなかったし、またこの眠っている町の消防の副小頭以外の何ものでもあり得なかったのである。

さて、この植峰がお八重の前借を払って、お八重を長火鉢のむこうに据えてから三年ほど経った。