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はんにゃのめん
般若の面
小川 未明
「赤い鳥」1928(昭和3)年11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,249 字 · 9 页
「母親は、年をとって、それに、あいにくかぜをひいて、あちらに臥っていますが。」と、息子は答えて、奥へはいったが、やがて時計を持って出てまいりました。
「この時計でございますか?」
旅人は、なつかしそうにその時計を手に取り上げてながめました。息子は、
「私は、子供の時分、そのくさりについている般若の面をほしいといって、どれほど、父にせがんだかしれません。しかし、父は、これは大事なのだといって、ほかのものは、なんでも、私が頼めばくれたのに、その磁石だけは、どうしてもくれなかったが、なるほど、この時計に、そんな来歴があったのですか?」と、昔を思い出していいました。
旅人は、この話を聞いているうちに、自分が子供の時分、ちょうど、それと同じように、般若の面をほしがったことを思い出しました。そして、この小さな、一つの磁石によって、自分と息子とが、同じように父親に対して、なつかしい記憶のあることをふしぎに思い、なんということなく、この人生に通ずる一種のあわれさを感じたのでありました。
「いくら、昔を思い出しても、なつかしいと思う父親は、もう帰ってきません。せっかく遠方からおいでなさいましたのですから、どうか、この時計をお持ちください。