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ふねのはへんにのこるはなし

船の破片に残る話

小川 未明

「童話の社会」1930(昭和5)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,277 字 · 5 页

青空文庫

南の方の海を、航海している船がありました。太陽はうららかに、平和に、海原を照らしています。もう、この船の船長は、年をとっていました。そして、長い間、この船を自分たちのすみかとしていましたから、あるときは自分の体と同じようにも思っていたのであります。

「俺もはやく、こんな船乗りなんかやめて、陸へ上がりたいと思っているよ。いくら、世の中が文明になったって、こうして船にばかり乗っているんでは、ありがたみがわからないじゃないか。」と、若い船員が、甲板の上で、仲間に話をしていました。

「おまえのいうとおりさ。飛行機ができて、一日に、千里も二千里も、飛ぶようになったって、それが俺たちに、なんの利益にもなるのでない。この船でも、新しかった昔は威張って、大きな港々へいったものさ。それが古くなって、ほかに、速いりっぱな船ができると、あまり人のいかないような遠いところへやらされるようになってしまう。そして、この船に乗っているものは、どうなりっこもない。いつも変わらない、終わりのない労働がつづいているばかりなのさ。」と、仲間も答えていました。

海は、人間の話などは、耳にはいらないように、朗らかな顔をして、笑っていました。