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はなのたより

花のたより

宮本 百合子

「社会評論」1935(昭和10)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,279 字 · 12 页

青空文庫

あの記事で、これはありつけるぞととりいそぎ紋付袴を一着に及んだ人相よからぬ職業的一団のあったことも時節柄明らかである。

今月の雑誌は、引つづき世間の興味をうけついで何かの形で東郷侯令嬢の女給ぶりを記事にしているのである。或る読売雑誌には、かっちゃんと呼んで断髪兵児帯姿の良子嬢をはったあんちゃんの一人が、いかにも町の若者らしい情感をもってかっちゃんがそこいらの女給などは夢にも知らぬカメラの話、ヨットの話、華美な夏の鎌倉の遊楽生活を話したりするをきいて、映画的憧れ心を強く刺戟されたことを物語っている。この若い男の結論も、やっぱりどこかちがっていた、というので、醒めての今はボーとなった何かお伽噺めいた印象を読者の心に注いでいる。

東郷侯爵家から警察を通じて、良子嬢をとりまいた五人の平民の若者にお礼として五十円ずつよこされ、狐につままれたような気持で固辞するのを強いても握らされて帰宅したという記事や又、当時そうとは知らずに勿体ないことをした、と洩した客の言葉などは、第三者の立場にあるものの目には、なかなか興味ある社会的な内容を含んで映るのである。何かのはずみに間違えて平民の社会に天降った侯爵令嬢良子が、つつがなく再び天上したからには、総てはあの時ぎりの白日夢とし、東郷侯爵家というもののまわりは又〔七字伏字〕閉ざさ