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はなふぶき

花ふぶき

豊島 与志雄

「風雪」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,409 字 · 20 页

青空文庫

おれ一人、思えば、みんなのだしに使われてるようだ。ばかばかしい限りだ。どうにでもなるがいい。こんなところに千代がいるものか。

おれは足を早めた。午前中の大気はすがすがしく穏やかだが、時をおいて、へんに強い風が流れる。もっと強く風が吹けば、空の薄らがすみも晴れ渡るだろう。

神社の境内はひっそりしていた。見渡しても千代はいない……。だが、彼方に、じっと佇んでるのが、やはり千代だった。

相変らず臙脂系統の衣類だが、いつものと違って、大きな御所車の模様が浮き出している。首が短くて髪はひっつめで、顔は一見して白痴の相だ。ぼんやりつっ立って上を仰いでいる。桜の花弁が一輪二輪、散ってるようだが、また、さーっと風が流れると、一面に、と思えるほどの花ふぶきになった。その花弁を、千代は袖に受けて、指先でかき集め、口に持っていってかじりはじめた。

おれの方が狂気の思いだった。憎悪の念などは吹っ飛んで、愛情、じゃあない、彼女と同類の気持ちだ。負けた、という思いがちらとひらめたが、あとはしいんとなった。花ふぶきのあとの花弁が、まだ空中に舞っている。おれは千代の方へ歩みよった。