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はなさかぬリラ
花咲かぬリラ
山本 周五郎
「新青年」公友社、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,378 字 · 36 页
来太は拾いあげた鞄を右手に歩幅の広いかけ足で国道のほうへとびだしていった。
彼は力いっぱい大地を踏みつけ拳を振り上げてわめきたい気持だった。富美子は嫁にいったのではない、それだけで元気を回復するには充分だ。修道院へ入って尼になろうという理由がどんなものだろうと、会いさえすればその決心を翻えさせる自信はある、「本当にその自信があるだろうか」一応そう反問してみたが、もう不安も疑いもわきはしなかった、彼はのしかかるような足どりで国道を南へ歩いていった。
山沢という村へはいってきくと、その修道院というのはすぐわかった。それは国道から西へ十町ばかり登った赤松という部落にあり、明らかに古材を持って来て急造したらしい疎末な、しかしがっちりした三棟の建物から成っていた。来太は門を入り、爪先登りの道を大股に玄関へいって、受付のような窓口で案内を乞うた。四辺はひっそりとして、風立ってきたのだろう、裏山のあたりで松の枝の鳴っているのが冴えて聞こえる。
「どうぞお入りください」出て来たのは中年の日本人の尼僧だった、「……いま呼びますからしばらくお待ちくださいまし」
三坪ばかりの応接間へ通すと、尼僧はぎいぎい鳴る扉を閉めて出ていった。