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はなさけるいし

花咲ける石

坂口 安吾

「週刊朝日別冊 第三号」1954(昭和29)年8月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,620 字 · 24 页

青空文庫

その決心は磐石のようだ。とうてい房吉の決意をひるがえす見込みはないから、先方をうごかす以外に仕方がない。そこで薗原村の大庄屋惣左衛門にたのんで、伊之吉をうごかすために仲裁の労をたのんだけれども、あくまで心のねじけている伊之吉はてんで耳をかそうとしない。惣左衛門も呆れて、

「私の村からお前さんのような悪者がでては、私はもう世間様に顔向けできない気持だね。そんな奴がのさばるぐらいなら私はさっさと死にたいから、私の首を斬っておくれ」

「そんな薄汚い首と引き換えにこッちの首が落ちては勘定が合わないね。しかし、せっかくの頼みだから、お尻でも斬って進ぜようか」

「なんという失礼な奴だ」

「アッハッハ。剣と剣の勝負、あなた方が余計な口だしは慎しんでいただきたい」

仲裁の見込みもなかった。

★

天保二年、三月十一日、夜八時。房吉は従者二名をしたがえて、薗原村の伊之吉宅に出向いた。庭前には竹矢来をめぐらして試合場の用意ができていたが、実は竹矢来の外、屋上や樹上に弓矢鉄砲を伏せ、房吉を狙い討ちにしようという作戦だ。

山崎はまず房吉を座敷に招じ入れた。そのフスマの陰には槍ナギナタの十数名が隠れていて、合図に応じて房吉を庭へ追い落す手筈になった。