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はなこのちんじゅつ
花子の陳述
豊島 与志雄
「別冊文芸春秋」1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 22 页
魚屋と八百屋は御用聞きが来て、註文の品物を配達してくれますので、日常の買出しの用事もあまりありませんでした。
出版社というものは、どういうところかわたくしは存じませんが、良吉さんの出勤は朝遅く、たいてい十時頃でしたが、お帰りはまちまちで、早かったり遅かったりしました。早い時には、缶詰や瓶詰や牛肉の包みなどをぶら下げておいでになり、美津子さんと一緒に夕食の仕度をなさることもありましたが、そのお帰りが遅いと、美津子さんは有り合せの物で、いい加減に食事をお済ませになりました。御一緒の食事の時には、酒をお飲みなさることもありました。
ある晩、だいぶ長く酒を飲んでいらっしゃるようでしたが、遅くなってから、お二人の声がだんだん高くなり、喧嘩でもなさってる様子でした。わたくしも母も、それには意外な気が致しました。いつも仲睦じいお二人だとばかり思っておりましたのです。別に聞き耳を立てたわけではなく、何を言い争っていらっしゃるのか分りませんでしたが、ただならぬ声の調子でしたし、食卓を叩く音がしたり、杯を打ち割る音がしたりして、それがいつまでも続きますので、へんに寒々とした気持ちになりました。