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わかきせいしんのせいちょうをえがくぶんがく

若き精神の成長を描く文学

宮本 百合子

「新女苑」1940(昭和15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,205 字 · 16 页

青空文庫

「車輪の下」は「青春彷徨」につづいて一九〇八年ごろ、日本で云えば明治四十二年小山内薫が初めて「自由劇場」を創立して、日本の文学は自然主義の頂点に立っていた時分に書かれた作品である。

ハンス・ギーベンラートという感受性のきわめてつよい、内気な、天賦の才能のかくされた少年が大人たちの俗っぽい野心や名誉心の犠牲となって、ついに自然なその子にふさわしい成長を挫かれ、あわれな最後をとげる一つの物語である。作者は、ハンスと同じ息づまる条件のなかに暮している官費神学校生徒にハイルナーを見出し、ハンスよりは強烈な闘争的なハイルナーは、脱走という周囲をこわす方法で自身を救い出し、そういうことをしないおとなしい、境遇に対して敏感ではあるが受身なハンスが、粗野な俗っぽい世界で己を滅ぼされてゆく過程を、暖く精密な心で描き出しているのである。

その下に愛すべき青春を轢挫く世俗の車輪は、ヘッセのみるところでは、所謂現実的な人々の生活に対する真の愛の欠乏である。そういう大人たちは、この人生に自分たちの欲望しか認めず、自分たちの希望の成就しか目ざさずそのために未来は人間のよろこびとなる存在であったかもしれない稚く美しく哀れな生命の幾つかが圧しつぶされ、壊滅してゆくことについては全く鈍感に生活している。