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「ちゃわんのゆ」のことなど

「茶碗の湯」のことなど

中谷 宇吉郎

「婦人之友」1942(昭和17)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,038 字 · 11 页

青空文庫

そういう風に考えると、茶碗の湯の湯気を作っている霧の粒も案外に重要な意味をもっているのである。

このイオンが霧の粒の芯になるのは、空気中に細い塵が殆んどない時に限るのである。それはイオンよりも塵の方が霧粒の芯になる作用が強いからである。それで普通の空気中に水蒸気が余分にある場合には、塵の方が霧を作ることになる。先生は「茶碗の湯」で次にこの問題をとりあげておられる。

「その芯になるものは通例、顕微鏡でも見えないほどの、非常に細い塵のようなものです。空気中にはそれが自然に沢山浮游しているのです。」地表から蒸発した水蒸気を沢山含んだ空気が温められると、上昇して行く。そして上空の冷い所へ行くと、霧の出来る条件になる。大気中には普通この眼に見えない細い塵が沢山あるので、それを芯として霧粒が出来る。それが即ち雲なのである。それで「空気中に浮んでいた雲が消えてしまった跡には、今言った塵のようなものばかりが残っていて、飛行機などで横からすかして見ると、丁度烟が拡がっているように見える」ことがある。

「茶碗から上る湯気」は顕微鏡にも見えない細い塵や、更に進んでは分子や電子の世界までを、われわれに覗かせてくれるばかりではない。