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くさとむしとそして

草と虫とそして

種田 山頭火

「愚を守る 初版本」1941(昭和16)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,482 字 · 3 页

青空文庫

私は萩を見るたびにいつも故人一翁君を思い出す。彼の名句――たまさかに人来て去ねば萩の花散る――は歳月を超えて私たちの胸を打つ。

今日はあまりの好晴にそそのかされて近在を散歩した。そして苅萱を頂戴した。

素朴な壺に抛げこまれた苅萱のみだれ、そこには日本的単純の深さが漂うている。何の奇もないところに量ることのできないものがある。

露草の好ましさも忘れてはならない。まいあさ、碧瑠璃の空へ碧瑠璃の花、畑仕事の邪魔にならないかぎりはそっとしておきたい。

だんだん月が澄みわたってくる。芋が肥え枝豆がおいしくなるにつれて、月も清く明らかになる。とかく寝覚がちの私は夜中に起きて月を眺める。有明月の肌寒い光が身にも心にも沁み入って、おもいでは果もなくひろがる、果もない空のように。

欲しいな、一杯やりたいな。――そんなとき、酒を求めないではいられない私は、亡き放哉坊の寂しい句をくちずさむ。――こんなよい月をひとりで観て寝る。

私にもひょいと戯作一句うかんだ。芭蕉翁にはすまないが。――

一つ家に一人寝て観る草に月

(「愚を守る」初版本)