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こうやのふゆ
荒野の冬
中谷 宇吉郎
「短歌研究」1940(昭和15)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,098 字 · 9 页
そのうちでも、もう四年前の話になるが、広尾線の豊似というところへ、雪質の調査に行った時の印象には一寸忘れがたいものがあった。
広尾線というのは、帯広から南の方へ襟裳岬の突端に向って下っている線のことである。北海道奥地の多くの支線と同じように、三等車と貨車との連結したもので、客車にはストーブが焚いてあった。そして汽車は函ごとにそのストーブの小さい煙突を出して走っていた。非常に混んでいて、縞目もわからない程汚れ切った着物を重ね着した女だの、犬の皮をはおった土工ふうの人たちだのが、ストーブの上に押しかぶさっていた。そして誰の顔もひどく汚れ、すえたような臭気が車内に満ちていた。
車窓の外には、見渡す限り広茫とした荒野が続いていた。
雪は浅くて、ところどころに砂礫雑りの乾いた土が露出し、開墾のために立木を伐採したあとの切株が、雪原に点々と黒く残っていた。その株の大きさから、かつてはこの土地に亭々と聳えていた樹の姿も偲ばれて、いたましい気がした。それらの立木たちは、まだ雪原のかなたには残っていて、黒い林になっていた。そしてその林の上に、日高連峰のはげしい岩山の姿があった。