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こうやのふゆ

荒野の冬

中谷 宇吉郎

「短歌研究」1940(昭和15)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,098 字 · 9 页

青空文庫

雪は残っていなかったが、寒風が広いこの荒野を吹きつらぬいていた。その中で、ただ一人木を伐っている男の姿が見えた。一番心に残るのは、その小屋の一つに、赤ん坊の襁褓らしいものが少し乾してあったことである。同車の土工らしい男、それも油煙と泥とで汚れた顔をした男であったが、誰に言うともなく「へん、馬鹿な奴らだ。こんな火山灰の所、何もとれやしないのに」と、つぶやくにしては大き過ぎる声で言っていた。

豊似の市街地へ着いて、仕事の都合で、また一里半ばかり鉄道を離れた土地へ入った。雪不足の道、といっても名ばかりの道であるが、それを馬橇で行った。少し行くと、もう人煙を遠く離れたという感じの景色になった。馬橇の男は道々この土地に住むことの辛さを、一人語りに話してくれた。

調査は案外はかどって、早く豊似へ帰って来たのであるが、午後一時半の汽車におくれたので、次の汽車は夜の八時近くまで待たねばならなかった。駅できいてみると、宿屋はあるということで、其処で休むことにした。

宿屋は案外綺麗で、一寸意外な気がした。もっとも綺麗といっても、畳がちゃんと敷いてあって、襖もとにかくはいっているという程度であった。