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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
広重の絵本『江戸土産』によって、江戸の都人士が遍く名高い松として眺め賞したるものを挙ぐれば小名木川の五本松、八景坂の鎧掛松、麻布の一本松、寺島村蓮華寺の末広松、青山竜巌寺の笠松、亀井戸普門院の御腰掛松、柳島妙見堂の松、根岸の御行の松、隅田川の首尾の松なぞその他なおいくらもあろう。しかし大正三年の今日幸に枯死せざるものいくばくぞや。
青山竜巌寺の松は北斎の錦絵『富嶽卅六景』中にも描かれてある。私は大久保の佗住居より遠くもあらぬ青山を目がけ昔の江戸図をたよりにしてその寺を捜しに行った事がある。寺は青山練兵場を横切って兵営の裏手なる千駄ヶ谷の一隅に残っていたが、堂宇は見るかげもなく改築せられ、境内狭しと建てられた貸家に、松は愚か庭らしい閑地さえ見当らなかった。この近くに山の手の新日暮里といわれて、日暮里の花見寺に比較せられた仙寿院の名園ある事は、これも『江戸名所図絵』で知っている処から、日和下駄の歩きついでに尋ねあてて見れば、古びた惣門を潜って登る石段の両側に茶の木の美しく刈込まれたるに辛くも昔を忍ぶのみ。庭は跡方もなく伐開かれ本堂の横手の墓地も申訳らしく僅な地坪を残すばかりであった。