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かつしかみやげ

荷風随筆集(上)

永井 荷風

永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页

青空文庫

第五 寺

第五 寺

杖のかわりの蝙蝠傘と共に私が市中散歩の道しるべとなる昔の江戸切絵図を開き見れば江戸中には東西南北到る処に夥しく寺院神社の散在していた事がわかる。江戸の都会より諸侯の館邸と武家の屋敷と神社仏閣を除いたなら残る処の面積は殆どない位であろう。明治初年神仏の区別を分明にして以来殊には近年に至って市区改正のため仏寺の取払いとなったものは尠くない。それにもかかわらず寺院は今なお市中何処という限りもなく、あるいは坂の上崖の下、川のほとり橋の際、到る処にその門と堂の屋根を聳している。一箇所大きい寺のあるあたりには塔中また寺中と呼ばれて小さい寺が幾軒も続いている。そして町の名さえ寺町といわれた処は下谷浅草牛込四谷芝を始め各区に渡ってこれを見出すことが出来る。私は目的なく散歩する中おのずからこの寺の多い町の方へとのみ日和下駄を曳摺って行く。

上野寛永寺の楼閣は早く兵火に罹り芝増上寺の本堂も祝融の災に遭う事再三。谷中天王寺は僅に傾ける五重塔に往時の名残を留むるばかり。本所羅漢寺の螺堂も既に頽廃し内なる五百の羅漢のみ幸に移されてその大半を今や郊外目黒の一寺院に見る。