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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
崎川橋という新しいセメント造りの橋をわたった時、わたくしは向うに見える同じような橋を背景にして、炭のように黒くなった枯樹が二本、少しばかり蘆のはえた水際から天を突くばかり聳え立っているのを見た。震災に焼かれた銀杏か松の古木であろう。わたくしはこの巨大なる枯樹のあるがために、単調なる運河の眺望が忽ち活気を帯び、彼方の空にかすむ工場の建物を背景にして、ここに暗欝なる新しい時代の画図をつくり成している事を感じた。セメントの橋の上を材木置場の番人かと思われる貧し気な洋服姿の男が、赤児を背負った若い女と寄添いながら歩いて行く。その跫音がその姿と共に、橋の影を浮べた水の面をかすかに渡って来るかと思うと忽ち遠くの工場から一斉に夕方の汽笛が鳴り出す……。わたくしは何となくシャルパンチエーの好んで作曲するオペラでもきくような心持になることができた。
セメントの大通は大横川を越えた後、更に東の方に走って十間川を横切り砂町の空地に突き入っている。砂町は深川のはずれのさびしい町と同じく、わたくしが好んで蒹葭の間に寂寞を求めに行くところである。折があったら砂町の記をつくりたいと思っている。