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かつしかみやげ

荷風随筆集(上)

永井 荷風

永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页

青空文庫

わたくしがこの文についてここに註釈を試みたくなったのも、滄桑の感に堪えない余りである。

「忍ヶ岡」は上野谷中の高台である。「太郎稲荷」はむかし柳河藩主立花氏の下屋敷にあって、文化のころから流行りはじめた。屋敷の取払われた後、社殿とその周囲の森とが浅草光月町に残っていたが、わたくしが初めて尋ねて見た頃には、その社殿さえわずかに形ばかりの小祠になっていた。「大音寺前の温泉」とは普通の風呂屋ではなく、料理屋を兼ねた旅館ではないかと思われる。その名前や何かはこれを詳にしない。当時入谷には「松源」、根岸に「塩原」、根津に「紫明館」、向島に「植半」、秋葉に「有馬温泉」などいう温泉宿があって、芸妓をつれて泊りに行くものも尠くなかった。

『今戸心中』はその発表せられたころ、世の噂によると、京町二丁目の中米楼にあった情死を材料にしたものだという。しかし中米楼は重に茶屋受の客を迎えていたのに、『今戸心中』の叙事には引手茶屋のことが見えていない。その頃裏田圃が見えて、そして刎橋のあった娼家で、中米楼についでやや格式のあったものは、わたくしの記憶する所では京二の松大黒と、京一の稲弁との二軒だけで、その他は皆小格子であった。