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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
地上の最も楽しく最も好いものとして敬い尊び愛さねばならぬものだ。
それ故私は旅館の寝床の毛布を引捲る時にはいつも嫌悪の情に身を顫わす。ここで昨夜は誰れが何をした。どんな不潔な忌わしい奴がこの蒲団の上に寝たであろう。私は人がよく後指さして厭がる醜い傴僂や疥癬掻や、その手の真黒な事から足や身体中はさぞかしと推量されるように諸有る汚い人間、または面と向うと蒜や汗の鼻持ちならぬ悪臭を吹きかける人たちの事を想像するし、不具者や伝染病や病人の寝汗や、人間の身体の汚いという汚いもの、醜いという醜いものを想像する。
自分が寝ようとする寝床にはそういう醜いものが寝たかも知れぬ、と思うと、私は其処へ片足を踏入れるのが何ともいいようのないほど厭である。」
これは無論西洋の旅館の話だ。日本の旅館にはそれに優るとも敢て劣らぬ同じ蒲団の気味悪さに、便所とそれから毎朝顔を洗う流し場の不潔が景物として附加えられてある。
便所の事はいうまい。もしこれが自分の家であったら、見知らぬ人に寝起のままの乱れた髪や汚れた顔を見せずとも済むものを、宿屋に泊る是非なさは、皺だらけになった寝衣に細いシゴキを締めたままで、こそこそと共同の顔洗い場へ行かねばならない。