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くさもみじ

荷風随筆集(下)

永井 荷風

永井荷風『荷風随筆集(下)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:草紅葉、西瓜、梅雨晴、正宗谷崎両氏の批評に答う、裸体談義。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,512 字 · 63 页

青空文庫

ロッチが初て日本に来遊したのは、そが日光山の記に、上野停車場を発した汽車が宇都宮までしか達していない事が記されているので、明治十六、七年のころであったらしい。当時ロッチの見た日本の風景と生活にして今は既に湮滅して跡を留めざるものも少くはない。ロッチの著作はわたくしが幼年のころに見覚えた過去の時代の懐しき紀念である。長煙管で灰吹の筒を叩く音、団扇で蚊を追う響、木の橋をわたる下駄の音、これらの物音はわれわれが子供の時日々耳にきき馴れたもので、そして今は永遠に返り来ることなく、日本の国土からは消去ってしまったものである。

英国人サー・アーノルドの漫遊記、また英国公使フレザー夫人の著書の如きは、共に明治廿二、三年のころの日本の面影を窺わしめる。

わたくしはラフカヂオ・ハーンが『怪談』の中に、赤坂紀の国坂の暗夜のさま、また市ヶ谷瘤寺の墓場に藪蚊の多かった事を記した短篇のあることを忘れない。それらはいずれも東京のむかしを思起させるからである。

○

わたくしはつらつら過去の生涯を回顧して見ると、この六十年の間、わたくしの思想と生活との方向を指導し来ったものは、支那人と西洋人との思想であった。