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ヒューネラル・マーチ

葬送行進曲

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1931(昭和6)年4月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 25 页

青空文庫

讃之助が思わず自分の家へ呶鳴り込んだのも無理はありません。

「お帰り遊ばしませ」

出迎えた女中達は、主人の以ての外の機嫌に、少しおどおどして居る様子。

「奥さんは何うした」

「――あの歌舞伎へ入らっしゃいました。今日はお坊ちゃまの忌明けだから、久し振りで気保養に行って来る、旦那様は会社の方から直ぐ木挽町へお廻りになる筈だからと仰しゃいまして――」

主人の不意の帰宅に怪訝な顔をし乍らも、女中頭らしい年配の一人は、弁解らしく斯う言います。そう言われれば成程二三日前から、貴美子がそんな事を言って居たようでもありますが。それにしても腑に落ちない事があります。

「山北さんから会社へ電話が掛ったんだ。奥様と御一緒に申上げ度い事があるから直ぐお帰りになるようにって、可怪しいねえ――山北さんは何うしたんだ」

「お二階でピアノを弾いて在っしゃいます」

女中頭は、家庭教師の出過ぎた仕打ちに不平があるらしく、ひどく角目立った物の言いようをします。

「何? 山北さんが。あれが山北さんか?」

讃之助は全く驚いてしまいました。家庭教師の山北道子がピアノを弾くと言うことは、想像もしなかった事で、しかも此処から聴いた様子では、余程の玄人です。