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ヒューネラル・マーチ

葬送行進曲

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1931(昭和6)年4月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 25 页

青空文庫

遠くの方から二人を見付けて、揉み合う盛装の男女の間を摺り抜けるように近づいたのは、讃之助と同年配の美しい髭のある男、貴美子夫人の兄で、酒巻四郎というドクトルです。

「あの曲は不吉で嫌いなんですって――」

先走る貴美子夫人の口を押えるように、

「そんな人聞きの悪い事を言っちゃいけない――昨夜遅くまで麻雀を付き合って、寝が不足のせいだろう、頭痛がして敵わないんだ」

「それは惜かったネ、素晴らしい葬送行進曲だったよ。山北さんなんか、ポロポロ泣いて居た――」

「あら先生、泣いたんでは御座いません。眼が痛かったんで御座いますよ」

家庭教師の山北道子は、十二三になる弱そうな少年――讃之助の先妻の子で、たった一粒種の隆――と一緒に其後から人混みを抜けて近づきました。

山北というのは、三十二三の未亡人らしい淋しい婦人で、悲しみの為か人造人間のような硬い表情をして居りますが、そのくせ、包んでも包んでも、包み切れないと言った、妙に魅惑的な、ぞんざいに扱った宝石のような感じのする女です。併し刻みの深い顔はお面のように冷たく、額が少し抜け上って、軽い跛を引く恰好などは、何う譲歩して考えても、決して美人ではありません。