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じょうはつざら
蒸発皿
寺田 寅彦
「中央公論」1933(昭和8)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,912 字 · 18 页
しかし科学が進めばかえって今まで知られなかった新しい不思議なものも出て来るのである。現在物理学者の問題となっている宇宙線などもその一例である。
宇宙のどこの果てからとも知れず、肉眼にも顕微鏡にも見えない微粒子のようなものが飛んで来て、それが地球上のあらゆるものを射撃し貫通しているのに、われわれ愚かなる人間は近ごろまでそういうものの存在を夢にも知らないでいたのである。その存在を認める唯一の手段としては、この放射線のために空気その他のガスの分子が衝撃されて電離し、そのためにそのガスの電導度にわずかながら影響し、従って特別な装置の鋭敏な電気計に感ずるという、そういう一種特別の作用を利用するほかはない。もっとも地上に存する放射性物質から発射されるいろいろの放射線もやはりこれと同様な性質をもっているのではあるが、それらのものが物質を貫通する能力に比べて比較にならぬくらい強大な貫通能力を宇宙線が享有しているために、地上の諸放射線とはおのずから区別されるのである。すなわち、数尺の鉛板あるいは百尺の水層を貫徹して後にも、なお機械に感じるのであるから、ビルディングの中の金庫の中にだいじにしまってある品物でもこの天外から飛来する弾丸の射撃を免れることはできないわけである。