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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「まさか、そんな悪い人間じゃあないだろうよ。………」
「一体、こうなる前に秘密探偵にでも頼んで調べたことがあるのかね?」
「秘密探偵に頼んだことはない」
「じゃ外の方法ででも調べたかね」
「別に特に調べると云うようなことはしなかった。………そう云うことは僕は嫌いだし、つい面倒だもんだから、………」
「君と云う人にも呆れるな」
高夏は吐き出すように云った。
「―――相手はたしかな人間だと云うから、無論一と通り調べてあるんだと思ったんだが、それじゃあんまり無責任じゃないか。若しも色魔のような奴で、美佐子さんを欺しているんだったらどうするんだい?」
「そう云われると何だか不安になるけれどね。………しかし会った時の感じでは、大丈夫そう云う奴じゃあないよ。それに僕は、阿曽よりも実は美佐子を信じているんだ。美佐子は子供じゃあないんだから、善い人間か悪い人間か見分けるぐらいの分別はあるだろう。美佐子がたしかだと云うんだから、それで安心しているんだ」
「そいつは余りアテにはならんね。女と云うものは悧巧なようでも馬鹿だからな」
「まあ、そう云うなよ、僕は成るべく悪い場合を考えないようにしているんだから」