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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
天狗弁は大阪へ出て文楽の楽屋を手伝っているけれど、仕事というのは昔からある人形の直しをしたり、胡粉を塗りかえたりするくらいに過ぎない。由良亀も先代の男はいいものを作ったが、今の代となってからは理髪師か何かを本業として、その片手間に矢張つくろいをするだけである。芝居の方では新しいものが得られないから、古い首を出来るだけ手入れをして使う。それで毎年、盆と暮とには、方々の座の破損した人形が修繕のために人形師の所へ幾十となく集まって来るので、そう云う時に行き合わせれば、こわれた首の一つや二つは安く譲って貰えると云う。
そんな話を何処からか委しく調べて来た老人は、「今度はどうしても人形を手に入れる」と力んでいた。実はこのあいだ文楽で使いふるしたものを譲り受けるようにいろいろ手を廻したのがうまく行かないで、「淡路へ行けば買えますよ」と、人に教えられたのだそうである。そして順礼の道すがらには、芝居を見て廻るばかりでなく、由良の港の由良亀を訪い、人形村の源之丞の家に行き、帰り道には福良から船で、鳴門の潮を見て徳島へ渡り、天狗久にも会って来ようと云うのである。
「要さん、何とのどかなもんじゃあないか」