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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
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「冷えるところへ持って来て、酒が這入ったもんだから、………」
と、老人はさっきから二度も三度も小用を足しに立って行った。が、誰よりも困っているのはお久で、実は場所柄が場所柄だから、なるべくそんなことがないように出がけに済まして来たのだけれど、気にするとなお催すものだし、莚の下から背すじの方へ冷めたさが這い上って来るのに加えて、いけぬ口ながら二つ三つ老人の相手をしたり、重箱の物を摘まんだりしたのが覿面に利いて来たのである。
「何処どす?………」
と云って、一度彼女は立ち上ったが、
「お久さんにはとても駄目ですよ」
と、要が戻って来て顔をしかめた。聞けば囲いのしてない所へ肥桶が二つ三つ並べてあって、男も女も立ちながら用を足すのだと云う。
「わてエ………どうしょう?………」
「いいやな、お前、見られるのはお互様だあな」
「それかて、立ったなりで出来ますかいな」
「京都ではよく女がそうしているじゃないか」
「あほらしい。まだそんなことしたことおへんえ」
何処かその辺まで行ったらうどん屋か何かあるだろうと云われて出て行ったお久は、それから小一時間もして帰って来た。町まで行って、うどん屋の前も、めし屋の前も通り過ぎてみたけれど、何だか這入りにくくもあり、何処の店も薄気味が悪そうなので、とうとう宿屋まで歩いてしまって、帰りは俥で戻って来