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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
と、二つの国の言葉で云いながら、彼女はうすい瑪瑙色にかがやくグラスへ唇をつける。この女はいつもこうして、此処の家には碌なシャンパンはないと云う口実の下に、自分がこっそり買い込んで置くドライ・モノポールを三割も高く売りつけるのである。
「あなた、あの話考えてくれた?」
「いいや、まだ、………」
「でもどうしてくれるのよ、ほんとうに?………」
「だからさ、そいつがまだだと云ってるんだよ」
「ちょッ、いやンなっちまうなあ、いつでもまだだまだだって。―――この間あなたに話したでしょう? あたしの方は千円でもいいのよ」
「聞いたよ、そいつは」
「じゃあ何とかしてくれない? 千円ぐらいなら考えてみるって云ったじゃないの」
「云ったかしらん、そんなことを」
「うそッつき! だから日本人は嫌いだって云うんだ」
「お気の毒様、どうも日本人で相済みません。いつかのあの、日光へ連れて行ってくれた亜米利加のお金持はどうしたんだい?」
「そんな話をしているんじゃないわよ。あなたほんとうに思ったよりもしみッたれねえ! ゲイシャ・ガールにならいくらだって出す癖に」
「冗談じゃあない、僕をそんなお金持だと思ってるのが間違いなんだよ、千円と云えば大金だからな」