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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
と途々たしなめられて来たのが腹にあったのでもあろうか、美佐子は十五分もすると不承々々に父親と一緒に降りて来て、廊下に立ちながらそっと顔を直してから、一と足先に表へ出た。
「さあ、じゃあちょいと行って来ますよ」
と、紗の宗匠頭巾を被った、宝井其角と云ういでたちで奥から現れた老人は、玄関まで送って出たお久と要とにそう云い残すと、白足袋の足に利久を穿いた。
「お早うお帰り」
「いや、お早くもないかも知れない。―――要さん、美佐子にも云って置いたんだが、今夜は泊まって貰いますよ」
「いろいろとどうも御厄介になります、僕は孰方になりましても差支えはありません」
「お久や、わたしの蝙蝠を出して貰おう、大分蒸して来たようだが、この塩梅じゃあ又雨だな」
「そしたら、車でお行きやしたら?」
「なあに、じきそこだ、歩いたって訳あないさ」
「行とおいでやす」
と、お久は送り出しておいて、すぐに手拭い浴衣を持って要のあとから座敷へ行った。
「お風呂が湧いてますよって、今の間に一と浴びおしやしたら?」
「有り難う、折角だけれど、どうしようかな、風呂へ這入ると臀が落ち着いちまうんでね」
「どうせお泊まりやすのんやろ?」