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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

そしてこれだけの人間が、罵り、喚き、啀み、嘲るのが、―――太兵衛の如きは大声を上げてわいわいと泣いたりするのが、―――みんな一人の小春を中心にしているところに、その女の美しさが異様に高められていた。成るほど義太夫の騒々しさも使い方に依って下品ではない。騒々しいのが却って悲劇を高揚させる効果を挙げている。………

要が義太夫を好まないのは、何を措いてもその語り口の下品なのが厭なのであった。義太夫を通じて現れる大阪人の、へんにずうずうしい、臆面のない、目的のためには思う存分な事をする流儀が、妻と同じく東京の生れである彼には、鼻持ちがならない気がしていた。ぜんたい東京の人間は皆少しずつはにかみ屋である。電車や汽車の中などで知らない人に無遠慮に話しかけ、甚しきはその人の持ち物の値段を聞いたり、買った店を尋ねたりするような大阪人の心やすさを、東京人は持ち合わせない。東京の人間はそう云うやり方を不作法であり、無躾であるとする。それだけ東京人の方がよく云えば常識が円満に発達しているのだが、しかしあまり円満に過ぎて見えとか外聞とかに囚われる結果は、いきおい引っ込み思案になり消極的になることは免れられない。