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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
とにかく義太夫の語り口には、この東京人の最も厭う無躾なところが露骨に発揮されている。いかに感情の激越を表現するのでも、ああまでぶざまに顔を引き歪めたり、唇を曲げたり、仰け反ったり、もがいたりしないでもいい。ああまでにしないと表わすことが出来ないような感情なら、東京人はむしろそんなものは表わさないで、あっさり洒落にしてしまう。要は妻が長唄仕込みで、この頃もよく人知れぬ憂さを紛らすために弾いているのが耳にあるせいか、まだあの冴えた撥の音の方が淡いながらもなつかしく聞いていられた。老人に云わせると長唄の三味線は余程の名人が弾かない限り、撥が皮に打つかる音ばかりカチャカチャ響いて、かんじんの絃の音色が消されてしまう。そこへ行くと上方の方は浄瑠璃でも地唄でも東京のように撥を激しく打つけない。だから余韻と円みがあると云うのだが、要も美佐子もこれには反対で、日本の楽器はどうせ単純なのだから、軽快を主とする江戸流の方が悪く毒々しい力がないだけ、邪魔にならないと云うのであった。そして夫婦は音曲のことで老人を向うへ廻す時は、いつでも趣味が一致していた。
老人は二た言目には「今の若い者は」