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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
………さて、これでよしと」
ほっとしたように高夏は寝台の端に腰をおろして、葉巻の煙を始めてふかふかと味わうのであった。
「じゃ、まだ子供には何も話してないんだね?―――」
「うむ」
「そう云う点が君と僕とは考が違うな、いつも云うことなんだけれど」
「もしも子供に尋ねられたら、僕は正直に云うだろう」
「だって、親の方から云わなかったら、子供がそんなことを切り出せる訳がないじゃないか」
「だからつまり話さないと云う結果になるのさ」
「よくないがなあ、ほんとうに。………いよいよと云う時に突然打ち明けるよりも、前からぽつぽつ因果をふくめて置く方が、却ってその間に覚悟が出来ていいんだがなあ」
「しかし、もううすうすは気が付いているんだよ。僕等も話こそしないが、気が付かれるだけのことは子供の前で見せているんだから、こう云う事があるかも知れない―――ぐらいな覚悟は案外ついているかとも思う」
「それなら尚更話すのに楽じゃないか。黙っていられるといろいろなふうに気を廻して、最悪な場合を想像したりするもんだから、それで神経質になるんだ。―――もしも君、もうお母さんに会えなくなるんじゃないかと云うような余計な心配をしていたとしたら、話をすると却って安心するかも知れんぜ」