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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「恐らく僕もそうなんだろうとは思ってるんだが、そう考えるといよいよ時機がなくなってしまって、身動きが出来なくなるもんだから、………」
「結局こいつは、別れないで済むことになるんじゃないかな」
「君はそう云う気がするかね?」
「僕より君はどうなんだ?」
「僕にはどうなるか全く分らない。分っているのは、別れなければならない理由は余りに明かに備わっている、これまででさえうまく行かなかったものが、阿曽との関係が出来てしまった今となって、―――それも僕から寧ろすすめてそれを許した今となって、―――夫婦でいられる訳はないし、すでに夫婦ではなくなっている、と云う事実だ。僕も美佐子もこの事実を前に置いて、一時の悲しみを忍ぶか永久の苦痛に堪えるか、どっちとも決断が附かずにいる、―――決断は附いているんだが、それを実行する勇気がないので迷っているんだ」
「君、こう云う風に考えることは出来ないかしらん?―――すでに夫婦でないものなら、別れる別れないと云うことは、云いかえると一緒の家に住むか住まないかと云うだけのことだ、―――そう考えたらよっぽど楽になりはしないか」
「もちろん僕は出来るだけそう考えているんだよ、そう考えていてやっぱりなかなか楽でないんだよ」