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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
「そりゃあ君が女性崇拝者のせいなんだろう、フェミニストと云う者は母婦型よりも娼婦型を喜ぶんだから」
「いいや、そうじゃないんだよ。つまり何なんだ、―――又問題が前に戻るが、娼婦型にさせた方が別れるのに楽だと思ったんだ。しかしそいつが大違いで、腹からなり切れちまえばいいんだが、附け焼き刃だから肝心な時に母婦の地金が出て来るんで、なお不自然な厭な気がするんだ」
「美佐子さん自身はどう思っているだろう?」
「自分はたしかに悪くなった、昔のように純粋でなくなったと云っている。―――それはそうに違いないんだが、一半の責任は僕にあるんだ」
何の事はない、彼女と結婚してからのこの歳月と云うものを、自分は如何にして離縁すべきかと云うことばかり考えつづけて暮らして来たのだ、別れよう別れようの一念しかない夫だったのだ。―――ふとそう思うと、要は自分の冷酷な姿がありありと自分に見えるのであった。自分は妻を愛し得ない代りには、決して侮辱を与えないように心がけていたつもりだけれど、女に取ってこれが最も大いなる侮辱でなくて何であろう。こういう夫を持たされた妻の寂しさは、娼婦にも母婦にも、勝気な者にも内気な者にも、何として堪えることが出来よう。