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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
庭には梅の樹が五六株あった。以前この辺が百姓家の庭であった頃からのもので、早いのは二月の初めから順々に花を持ちつづけて三月中は次から次へ咲いていたのが、今ではあらかた散り果てた中にまだ二三輪は真っ白な粒を光らしていた。二頭の犬は噛み合いをしない程度の隔たりを置いて、その梅の幹へそれぞれつながれているのである。ピオニーの方もリンディーの方も吠え疲れたと云う形で、スフィンクスのような姿勢で下腹をぺったり土へつけたまま、向い合って睨めくらをしていた。梅の枝が幾つも交錯しているのではっきり見定めにくいけれど、夫は洋館のヴェランダにいるらしい。紅茶の茶碗を前にして籐椅子に凭りながら大型の洋書のページをめくっているのが分る。寝間着の上に大島の羽織を纒って、メリヤスのパッチの端を無恰好に素足の踵まで引っ張っている高夏は、庭先へ椅子を持ち出していた。
「そこに繋いで置いて頂戴、今すぐ下へ見に行きますから」
彼女はざっと朝の風呂に漬かってからヴェランダへ出た。
「どうなすったの、もう御飯はお済みになったの?」
「済んじまったよ。待ってたんだがなかなか起きそうもないもんだから」