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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
こんな匂いをさせるんなら、うちの寝間着を着ないで頂戴よ」
「なあに、洗濯をすりゃあ直ぐに落ちますよ。着てしまったものを今更脱いだっておんなじ事さ」
庭では別段気がつくほどではなかったのだが、締め切ってあった洋室の中には一と晩じゅう澱んでいた葉巻の匂いと大蒜の匂いとが、むっと鼻を刺すばかりに交っていた。「支那に住んだら支那人と同じように盛んに大蒜をたべるに限る。大蒜さえたべていたら風土病にかかる心配はない」―――と、そう云うのが高夏の持論で、上海の彼の厨房では、毎日必ず大蒜入りの支那料理を欠かしたことがないのである。「支那人だったらきっと料理に大蒜を使う。大蒜の匂わない支那料理なんて支那料理のような気がしない」と云って、彼は内地へ帰るのにも乾した大蒜を持って歩いて、ときどきそれをナイフで削ってはオブラートへ包んだりして、持薬のように飲んでいた。胃陽を強くするばかりでなく、エネルギッシュになるんだから止められないと云うのであったが、「高夏が先の女房に逃げられたのは、あんまり大蒜臭かったせいだぜ」と、要は冗談にそう云い云いした。
「後生ですから、もう少し向うへ行っていて頂戴」