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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

二人で鼻を突き合わせると、どうしても思うように口がきけないの、或る程度まではいいけれど、それ以上に深入りすると涙ばかり出て来ちまって」

「一体しかし、阿曽君の所へ行けることは確かなんですか」

「そりゃ確かだわ。結局のところは二人の決心次第だと思うわ」

「向うの親や兄弟はなんにも知っていないのかしらん」

「うすうすは知っているらしいの」

「どう云う程度に?」

「まあ、要が承知でときどき会っているらしいと云うくらいな程度に」

「見て見ないふりをしてるんですね」

「そうなんでしょう。それより仕方がないんでしょう」

「じゃ、もし問題が現在以上に進んで来たら?」

「それも、まあ、―――此方の方が円満に別れたあとの事ならば故障は云わないだろう、お母さんは自分の心持を分っていてくれるからッて、―――」

再び庭で二頭の犬がいがみ合いを始めたらしく、きゃんきゃんと啼いた。

「まあ、又!」

と美佐子はちょっと舌打ちをして、膝の上でいじくっていた帯地の巻物をだらりと投げると、立って窓際の方へ行った。

「弘や、犬を彼方へ連れて行ったらいいじゃないの。うるさくって仕様がありゃしない」

「ええ、今連れて行くところなんですよ」