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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
カヨは髪を染めることをせず、もうだいぶ白毛も目立ってきたが、その赤らんだ半白の束髪のうしろに、真白な仔猫が乗っかってるさまは、いささか奇異な感じである。
「この頃、お母さんはなんだかへんですね。どうなすったんでしょう。」と久子は桂介に言った。
庭というほどの作りは何もない傍の空地には、大きな石灯籠が一つあり、大きな庭石が幾つも残っている。春先のことで、暖い日など、カヨはそこに出て、石の上に腰をおろし、日向ぼっこをしながら、じっと思いに沈んでることがある。肩には仔猫が乗っている。猫はその辺を駆け廻ろうともせず、彼女の肩に乗っかったまま、やはり日向ぼっこをしながら、時に頭を動かして、あちこち眺め渡している。カヨと猫は一体で、カヨは物を考え、猫は物を探索してるかのようだ。
怪しいことがある、とカヨは言いだしていた。耳がおかしいと言いだした、その後のことである。耳の方は、夜中に時計の音がいつも一つしか聞こえなくとも、それは錯覚としてもよく、裏の笹藪のかすかな音まで聞こえるとしても、それも錯覚としてもよかった。だが、耳についで、眼もおかしくなった。
二階の窓には、鉄格子の内側に、新たに硝子戸が取り付けてある。