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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
その硝子戸の外から、誰かが室の中をじっと覗いてることがあるのだ。はっとして、注意をこらすと、その怪しい人影は消えてしまい、あとには、こちらの姿がぼんやり映ってるだけである。その自分の姿に邪魔されて、怪しい人影の正体は一層見極めにくい。
それはただ気のせいで、錯覚にすぎない、と桂介は考えたい。
「いいえ、そればかりじゃありません。」とカヨは言う。
夕方など、表の薄暗いところから、誰かがじっと家の中を覗いているのを、確かに彼女は見たのである。炊事場などは、更に怪しいことが多かった。
土蔵の内部を改造して住居にしたとはいえ、それだけでは、どうにもならなかった。横手の壁をくりぬき、小さな潜り戸をつけ、その外にくっつけて炊事場や物置や便所を作った。トタン屋根の簡単な造作である。盗人の用心のため、潜り戸は厳重にし、炊事場には大事な物は一切置かないことになっている。そこには硝子戸が多い。その硝子戸に、しばしば人影がさすのである。勿論、夕方から夜にかけてのことだ。こちらの姿はいつもぼんやりしか映らないが、怪しい人影は、ちょっとの間のことで而も極めてくっきりと見える。