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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
「あんな厚かましい、恩知らずの成り上り者は、もう家に寄せつけてはいけません。」
何をそんなに怒ってるのか、久子は尋ねかねたし、カヨもそれより口を噤んで、二階にひっこんでしまった。
食事は一階でみな一緒にするのである。桂介が帰ってきて、夕食の時に、カヨは言った。
「戦争に負けて、人間もみな悪くなった。昔は、政治に関係すると、損をしたものですが、今では儲けています。木村さんがそうです。あんな人と交際してはいけません。」
何のことか桂介にはよく分らなかった。亡父の正秋は、晩年、政治に関係するようになって、だいぶ家産を傾けたことは、桂介も知っている。家屋や敷地をカヨの名儀にしてあるのも、万一の場合を慮ってのことであろう。然しそれが、木村又太郎と何の関わりがあるのだろう。
カヨはもう、怒ってるというより、心配してる方が多いようだ。桂介が尋ねるのに応じて、美津子との破談の理由を打ち明けた。白壁造りの普請のことは、口に上る隙がなかったらしい。材木代や建築費はさし当って木村が立替えておいてもよいが、見積り金額の借用証を一札入れて貰いたく、ついては、昔から知り合いの間柄ではあるが、確実を期するため、白井家の現在の土蔵と地所とに抵当権を設定さして貰いたく、その代り利子はいらない、という条件に、カヨは腹を立てたのである。