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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
神社仏閣にわざわざお詣りすることなど、昔は殆んどなかった。近頃になって、一乗寺に時たま出かけるが、仏道に帰依してるわけではない。写経に凝りだしたのも、特別な求道心からではない。すべて、外部的な形式的な支柱、そういった趣きがある。ただ、そのような支柱を必要とするほど、必死に縋りつこうとするものが内に在るらしい。内に在るそのものの邪魔になる場合には、逆に、写経の巻物など破り捨てるかも知れない。
深川の不動様も、それが目的ではなかったらしい。帰って来て、カヨは言った。
「久しぶりに、両国橋の上から、大川を見てきました。」
そして久子が初めて聞くような話をした。カヨの祖母にあたるひと、白木家の長命なお婆さんが、巣鴨のとげぬき地蔵様をたいへん信仰して、そのお札を一万枚、供養のため、両国橋の上から大川に流したことがある。お札には、地蔵様のお姿が捺印されている。捺印の版木と墨は家にあった。版木を一万枚おすのは大変なことだった。それを祈祷してもらって、大川に流したのである。その地蔵様の版木はどうなったか、いくら探しても見えないが、誰かお嫁に行く時にでも持って行ったのであろう。