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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
「思索」1949(昭和24)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页
塩は何のまじないなのであろうか。不吉な上に嫌な気持ちだった。
カヨは手を洗って、独語のように言う。
「蔓が生えるようでは、この家もあぶなくなった。」
そして久子に、卵酒を拵えてくれと頼んだ。
カヨが昼間から酒を飲むことは、これまでになかった。特別なことで、草のせいなのであろう。
二階がいつまでもひっそりしているので、久子は階段をそっと昇って、覗いてみた。カヨは卵酒を飲んで、そのお盆を階段口に押しやり、机の上に写経の巻物をひろげ、その上に両手を置き顔を伏せて、眠っている。坐った姿は小さく、頬は白く、赤毛や白毛の髪が、少し乱れたまましんと静まっている。猫の姿は見えなかった。その猫を眼で探すことさえ久子は恐れ、お盆を持って階段を忍び降りた。
その晩、カヨは夕食に降りてきて食卓にはついたが、箸は取らなかった。蔓のことを久子から聞いていた桂介が、カヨの顔色をちらちら窺っていると、カヨは、家の壁を白く塗り直そうと言いだした。
「土蔵の壁のままでは、それも剥げ落ちてますからね、あまりみっともないですよ。あれでは蔓だって生えます。白く塗り直しましょう。」
独りできめて、独りでのみこんでいるのである。