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くらのにかい

蔵の二階

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页

青空文庫

桂介はいい加減に聞いていた。反対がないので承知したものと、カヨは思ったらしく、何度もひとり頷いた。それから、食事の代りにも一度卵酒を飲みたいと言い、猫を抱いて二階に上った。

久子が卵酒を拵えて持ってゆくと、二階は新聞紙の紙屑だらけで、カヨと白猫と遊んでいる。カヨが紙つぶてを作り、投げてやると、猫はそれにじゃれつき、喰い破って、駆け廻る。その紙屑を、久子は拾おうとしたが、カヨはとめた。

久子がおりてくると、桂介は冷酒をコップで飲んでいた。家を白壁に塗り直すなんて、大変なことだろうと、久子は尋ねた。

「なあに、塗り直しはしないよ。ただ聞き流れしておけばいいんだ。」

彼はしばらく考えこんで、突然、顔を挙げて言った。

「母がいなかったら、母でなかったら、僕は、こんな土蔵なんか、ぶっ壊してやる。」

その顔を、久子は見つめ、それから急に、眼にいっぱい涙をためた。

二人ともそれきり黙りこんだ。二階では、白猫も遊び疲れたのか、何の物音もなく静まり返っている。