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そばのはなのころ

蕎麦の花の頃

李 孝石

「文学案内」1937(昭和12)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页

青空文庫

忠州屋の門をくぐり酒の座席で本当に童伊に出会わした時にはどうしたはずみでか、かっと逆上せてしまった。飯台の上に赭い童顔を載せ、いっぱし女といちゃついているところを見せつけられたから、我慢がならなかった。しゃらくせえ野郎、そのだらしねえ様は何だ、乳臭え小僧のくせに、宵の口から酒喰らいやがって、女とじゃれるなあ、みっともねえ、市廻りの恥曝しだ、それでいておいらの仲間だと言えるかよ。いきなり若者の前に立ちふさがると、頭ごなしに呶鳴りつけた。大きにお世話だと云わぬばかりに、きょとんと見上げる赤い眼にぶっつかると、どうしても頬打を喰わしてやらずにはおれなかった。童伊はさすがにかっとなって立ち上ったが、許生員は構わず言いたいだけを言ってのけた。――どこの何者だかは知んねえが、貴様にもててはたまるべえ、そのはしたねえ恰好見せつけられたら何と思うかよ、商売は堅気に限る、女なんてもっての外だ、失せやがれ。さっさと失せやがれ。

しかし一言も歯向かわず悄らしく出てゆくのをみると、いじらしくなって来た。まだ顔覚えな仲間にすぎない、まめな若者だったのに、こっぴどすぎたかなあ、と何か身につまされて気にかかった。